そうは言っても今日も泊まると2泊目、それはちょっとまずいかな、ということで、奈緒美は一旦家に帰る事になった。
「明日もお休みだし、映画でも見にいきたいな」
「そうだな……、考えたら、2人っきりで普通のデート、って久しぶりだな」
「今日は3人だったしね。それじゃ、帰ったらまた電話するね」
「おぉ、また明日」
 そうやって奈緒美が玄関のドアを開けようとした瞬間、
「ただいま~! ちょっと早くなったけど帰ってきたわよ~って、あら?」
「あ……」
「お、おふくろ……」
 またしても、バッドタイミング。

6 「Trust and affinity」

「奈緒美ちゃんが戻ってきた、ってのは知ってたけど、そっかそうなんだー」
「え、ええそういうことでして……」
 奈緒美と玄関先で鉢合わせしたのは、本来明日帰ってくるはずの俺のおふくろ、櫻井葉子だった。仕事が早めに片付いたから予定より早い便で帰ってきた、と土間に置いた大きなスーツケースに腰掛けながら、おふくろは俺たちに説明した。飛行機を急に変えたからエコノミーしかなくて疲れたわー、と語る割にはなんだか妙に元気で、おまけに俺たち2人を眺めながら、多分うれしくなさそうな方向で楽しいんだろうな、という表情をしていた。
「そういうことだったら、もうちょっと早くお会いすればよかったわね~、ねぇ直樹?」
「いや、何故そこで俺に振るんだよ」
「だってねぇ、息子の彼女なんですもの?」
「あー、いやまぁ……、あぁそうだ奈緒美、帰らなくて大丈夫?」
「あ、あぁそういえばそうだったわね!」
「あら、もう帰っちゃうの? 紅茶でも飲みながらゆっくりお話でもしていってほしかったんだけど」
「あーそれはまた今度な? ほら奈緒美も色々あるしさ」
「そ、そうね、それじゃおばさま、また今度改めてご挨拶をさせてください。今日のところはこれで」
「それじゃ仕方ないわねぇ、あ、ちょっと待って」
 そういうと、おふくろは手に持っていた紙袋の中から小さな包みを取り出し、奈緒美に手渡した。
「直樹から聞いてるかもしれないけど、ちょっと仕事でイタリアに行ってたのよ。だからこれはお土産。ハンカチだからまぁ、あって困らないと思うんだけど、迷惑かしら?」
「あ、いいんですか?」
「いいわよせっかくだし。分かってたら、もっときちんとしたおみやげを買ってきたんだけど、それはまぁ、また今度ね」
「どうもありがとうございます。それじゃぁ、また今度」
「気をつけてね。それじゃ」
 どうも失礼しました、と言いながら、奈緒美はバッグとおふくろが渡した包みを持って、外へと出て行った。玄関に残るのは、俺とおふくろの2人だけ。
「おふくろ……」
「どうかした?」
「いや……、親父とおふくろが結婚した理由が、なんとなく分かった」
 この悪い意味でのはしゃぎようは、親父を見ているようで。おふくろも、こんな感じにはしゃぐことがあるんだなぁ、というのが分かったのは収穫だけど、うれしいような悲しいような。
「あ、そうだ直樹?」
「何?」
「避妊はきちんとしなさいね。さすがに、まだおばあちゃんにはなりたくないわよ」
 な、え、えー!?
「何を言い出すかと思えば」
「言われなくても当然やってる、って?」
「いやそっちじゃなくて!」
「あらあら、照れなくても大丈夫よ? さっきの様子なら別に無理やり、って訳でもなさそうだし、それなら私は別に駄目だ、なんていわないから」
「いやっ別に…………、まぁ、一応きちんとしてるけど」
 多分、無理に否定するだけ無駄だろうな、これは。観念して認めた俺に、うむ、とおふくろは頷いて、
「それならよし。さてと、どうせ洗い物とかたまってるんでしょ? 片付けちゃうから、直樹は私のカバンを部屋に運んで」
「了解」
 まぁ、奈緒美がただのバッグではなくスーツケースなんかを持ち込んでいるのを見て、ははぁ泊まりにきてたんだな、ということは……と推測したのだろう。怒られなくてそれはよかったのだけど、こう、認められるのもなんだかうれしくないというか、すごく微妙な気分だ。

『あ、それじゃ別に怒られた、とかは無かったんだ』
「あぁ、特にはね」
 晩飯を食べた後に、俺は奈緒美に改めて電話をかけた。奈緒美のほうも予想外に長逗留になったので、奈緒美のお父さんに何か言われたりしてないだろうか、とちょっと心配になったのだが、むしろ奈緒美のほうが俺のことを心配していてくれた。
「ところで明日のことだけど、どうする?」
『あ、それなんだけどね、ちょっと早めに……そうね、9時くらいにうちに来てくれる?』
「いいけど、何で?」
『お父さんが一度話がしたい、んだって』
「あ、そう……って、え、え?!」
 まぁ、義父さんもこっちにいる以上、いつかはお呼びがかかるかなぁ、とうっすらと覚悟はしていたのだけど、こうもはやく来るとは予想外だった。
「そっか……それじゃまぁ、行かないわけにはいかないよな」
『まぁ、そんなに怒ってる、とかいう感じじゃないから、別に心配する事は無いと思うよ。泊まった事も何も言ってないし』
「そっか……、それじゃ、9時に奈緒美の家に行くわ」
『はーい、それじゃね』
「それじゃ」
 そう言って電話を切ると、俺はベッドに倒れこみながら、思わずうーむ、とうなってしまった。
 奈緒美のお父さん――確か斉藤由紀夫さん、といったか、どこかの大手の商社に勤めてたはずだ――とは、以前中学の頃に2度ほど会った事がある。そのときはまぁ普通に接してもらったのだが、あの”事件”の後に会うのは明日が初めてになる。当然、あのときの顛末も奈緒美から聞いているはずだ。で、普通の親だったら顛末を聞いたら怒るよな……。
 ただ、昨日電話で話したときの声は、いたって普通だったはず。随分とあわてていたから、そんなにしっかりと覚えている訳じゃないけれど、少なくとも怒っている、とかそういうニュアンスはなかったはず。今日の奈緒美の話でも、怒っている、といった感じはなさそうだったし、もしかすると、そう心配するほどのこともないのかもしれない。
 とりあえず、悩んでみても仕方がない。こうなったら出たとこ勝負だ、と踏ん切りをつけて、明日に備えて寝てしまう事にした。明日は7時くらいには起きないといけないから、休みとはいえあまり遅くまでは起きていられない。
 といいながらも、やっぱり色々悩んでしまい、結局夜の2時過ぎまで寝れなかったのだけれど。

 そして日曜日。いささか寝不足、という感じで何とか起きだすと、時間はもう8時過ぎ。手っ取り早く顔を洗い、寝癖を直し、手早く着替えを済ませて家を出た。
「奈緒美ちゃんのお父様によろしくね~」
 奈緒美のお父さんに呼ばれた、というのを聞いたおふくろは暢気にそう言って送り出したが、会いに行く俺としては、どんなことを話すことになるんだろうか、いきなり殴られるとかまさかないよなぁ、と、色々考えてしまい、やっぱ何か理由作って行くのやめようかな、とまで思うほどだった。
 とはいえ奈緒美の家は近いわけで、色々考えて結論が出ないうちに家の前に到着。そうは言ってもいつもより時間はかかったようで、時刻は9時ちょっと前。
「はーい、あ、直樹、おはよ。時間ぎりぎりかな?」
「あー……そうみたいだな」
「お父さんも待ってるから……あ」
「直樹君、おはよう。久しぶりだね」
 と奈緒美の後ろから現れたのはまさに奈緒美のお父さん、斉藤由紀夫さんだった。
「あ、あおはようございます! じゃなかった、お久しぶりです!」
「あはは、ま、入ってお茶でものんで、少し話でもさせてもらおうかな。時間は大丈夫かな?」
「ええ、ええっと……そうですね、1時間ちょっとくらいなら大丈夫です」
 本当は横浜まで出てから一緒に昼食を食べて、それから映画を見よう、というプランを考えていたので、11時までは居ても構わなかったのだが、あえて少なめに申告しておいた。
「そうか、それじゃ、とりあえず私の部屋に来てくれるかな? さぁ上がって上がって、奈緒美はお茶の準備をしてくれ」
「はーい」
「あ、はい、それじゃあ、お邪魔します」
 まぁ話がしたい、という事だったから、さすがに玄関先ですむとは思っていなかったが、いきなり『私の部屋』へ、というのは想像してなかった。こりゃぁどうなる事やら……。

 由紀夫さんの部屋は玄関を入って廊下の最奥、ちょうど玄関からは反対のサイドに位置していた。ドアを入って両サイドの壁には、天井までずらっと本棚がすえつけられ、窓側には大きな机が、その机の上には、東南アジア風の竹細工の置物がおいてある、という感じの、何か雑誌に出てきそうなくらい“それっぽい”部屋だった。由紀夫さんは机の前の椅子に座り、俺は入り口側の壁のそば、サイドテーブルのところにおいてある椅子を勧められた。
「この部屋はまぁ、私の仕事場兼書斎みたいなもんでね。まぁあまり人を入れることを考えてなかったから、窮屈かもしれないが我慢してくれるかな」
「あ、はい、いや全然窮屈なんてことは」
「そうか、ならよかった」
 実際、入り口そばに座ってみると、不思議と狭さの割には窮屈さは感じなかった。全体的に整った印象があるせいか、あるいは主である由紀夫さんの雰囲気ゆえ、なのかもしれない。
 由紀夫さんは机の方を向き、引き出しをあけて何かを取り出そう……としてやっぱりやめると、俺のほうにくるり、と向き直った。
「で、だ。まぁ君も想像していると思うけど」
「は、はい」
「奈緒美が私の出向にくっついて、静岡に2年弱行っていた経緯に関しては、私も重々承知してる。君が奈緒美にどんな事を言ったか、までね」
「あ、はい……」
 と、いうことは……
「まぁ体が目当てだった、なんていうのはいささか不穏当な発言だな、確かに。私も最初にそれを聞いたときは随分と憤慨したものだよ」
 うわ、ばれてーら……。
「浜松はそもそも私の故郷でね、最初は単身赴任の予定だったんだが、まぁ奈緒美も一緒なら、って事で実家で暮らすことになったんだよ、ばあさんと3人でな。でまぁ、引っ越してしばらく、1年くらいたった頃かな、奈緒美が言うんだな、ああは言ったけど、直樹君のあの言葉は、本心じゃないんじゃないか、ってね。性格から考えると、つい心にもないことを勢いで言っただけじゃないのか、ってね。まぁ最初にそれを聞いたときは、そんな事ないだろう、と思ったがね、そんな事無い、私は直樹を信じたい、とまぁ、奈緒美はそう言うんだな」
「……」
 まぁ、そんな事はないだろう、と思う由紀夫さんのほうが普通だから、むしろ奈緒美はそれでも俺のことを信じてくれたのか、という事に、うれしいような申し訳ないような、なんともいえない気持ちがこみ上げてきた。
「でだ。私も浜松支社への出向が終わって、本社に戻る事になったんだが、そのときになって奈緒美は、私に着いて東京に戻りたい、できれば直樹君と同じ高校に入りたい、すでにもうどこの高校かは調べてあるから、と言うんだな。あ、これは初耳だったかな?」
「あ、あぁ、はい、偶然、という事を聞いてましたから」
 随分と驚いたのを察知したのだろう、由紀夫さんはそう聞いてきた。いい学校を選んだらたまたま、なんてことではなく、奈緒美は俺のことを探し、俺と一緒の学校に通うつもりで、今の高校を選んでくれたのだ。
「そうか、それじゃまぁこれはオフレコ、という事で頼むよ。まぁ奈緒美のそのときの様子といったら、普段我侭なんて見せない奈緒美にしては珍しく強情でな、そこまで言うなら、って事で、単身赴任するつもりだったのをやめて、この家に戻ってきたんだよ」
「そうだったんですね……」
「で、それを踏まえて、まずは聞いておくわけだけど」
 そういうと由紀夫さんは、ぱし、と椅子の肘掛を軽くたたいて、
「まずは、だ。君がおととしの夏に言った言葉。一言一句繰り返さなくても、君は忘れてはいないと思うが、これは撤回するかね?」
 そう問いかけられて、はい、と答えないわけがない。奈緒美と再会するまでの2年間、俺はずっとあの言葉を発したことを悔やんでいた。
「勿論です。あれは……言ってはならない言葉でした。本心ではないゆえに、なおさら」
「ふむ、じゃぁ、次だ。君は奈緒美の事を、そうだな、自分にとってどういう存在だ、と思っているんだね?」
「どういう、ですか? 私は、そうですね……」
 奈緒美の事をどう思っているか。単純にいえば最愛の人、とでも言うべきなんだろうが、おそらくそんな回答では駄目なのだろう。これはおそらく、由紀夫さん一流の口頭試問、というやつだ。

「……得がたきパートナー、ですね」
 数分考えて、出た結論はそれだった。ただ好きだ、というのではない。奈緒美にならば全て預けられる、奈緒美の全てを預かる覚悟がある。自分なりの、そういう気概を込めた結論だった。
「……ふむ」
 それだけ答えると由紀夫さんは、先ほど何かを取り出そうとしてやめた引き出しを再び開け、小箱を取り出した。中に入っていたのは葉巻が6本。その中から1本を取り出すと、同じく引き出しの中から取り出したカッターでさくり、と端を切り、なぜか俺に差し出した。
「直樹君はいるかね?」
「あ、いえ結構です」
「そうか、なら失礼するよ」
 そういってマッチを擦り、葉巻に着火する姿は、なるほど随分と様になっていた。でも、俺一応未成年なんだけどなぁ、いいのだろうか。
「まぁ、いつかはこういう日が来るとは思っていたが、存外に早くきたもんだな……」
「は、はぁ……」
 ふぅ、と煙を上の方へ吹き出し、由紀夫さんは心なしか遠い目をしながら、そう言った。
「あの子は母親を、まぁ私の一人目の妻でもあったが、保育園の頃に亡くしてね。私も忙しかったものだから、それからは家に一人で、苦労もかけたし、寂しい思いもさせた。実家に戻ろうか、とも思ったが、そのときは仕事も忙しくてね……、まぁ、今から考えればなんで奈緒美より仕事を取ったのか、あの頃の自分を怒鳴りたい気持ちだよ。奈緒美に迷惑をかけたという点では、まぁ、君を怒る資格は私には無いのかも知れんな」
「いえ、その、そんなことは……」
 奈緒美の実の母親は随分と前に亡くなった、というのは、中学のときに本人から聞いたことがあった。だからこの話自体は驚くべき話ではなかったのだけれど、改めて由紀夫さんからそのことを聞かされると、奈緒美の抱いてきたいろんな思いを、想像せずにはいられなかった。
「その埋め合わせというわけじゃないが、奈緒美には将来は、幸せになってほしいと思っている。まぁ、別の女性とちゃっかり結婚した私が言えた義理ではない、というのもあるし、まぁ、罪滅ぼしと言うわけではないが、私に出来ることなら何でもするつもりだ。ただ、本当に幸せにしてやることは、まぁ、私には出来ないだろうね。私にできる事は、まぁ、今の恵まれた環境を維持してやる事ぐらいだ。親として立派に育てよう、なんてことを考えるまでもなく、奈緒美はもう十分立派な女性に育った。学業もそうだ、社会のつらさは、必要ないところまで学んでしまった。後は一緒に人生を歩んでくれる男だけだが、まぁそれは、ここに候補が現れた以上、問題ないだろうね」
「私、ですか」
 もちろん俺しかいない、というのは状況を見れば明らかだったが、思わず俺はそう聞き返してしまった。
「君以外にいないだろう? 勿論、現時点では、だがね」
「……分かりました、義父さん」
「うむ、まぁ、君には期待しているよ」
 そういうと由紀夫さんは、改めて深々と椅子に座りなおし、今度は満足そうに、葉巻の煙を吹き出した。俺は俺で、あまりの突然の事に――発した言葉すら、言った自分が言ってから驚くようなものばかりだった――、半ば呆然と椅子に座りながらも、それでも頭の中にはいろんな思いが駆け巡るのだった。

「そういえば、奈緒美は遅いな。ちょっと直樹君、見てきてくれないか」
 確かに、俺と由紀夫さんが書斎に入ってから、すでに20分ほど。紅茶の準備をするにはいささか長すぎる時間がたっていた。
「分かりました。台所、ですよね?」
「そうだ。部屋を出て右だ」
 言われたとおり、書斎の扉を開けて廊下を右へ行こうとすると、廊下の壁に奈緒美が立っていた。壁に寄りかかってはいたのだが、その頬にはうっすらと筋が……
「……聞いてた?」
「聞いてはいないけど、ね。耳には入ってた」
「そっ、か」
 答えを聞くと俺は、奈緒美の横にもたれて、ぎゅっ、と奈緒美の手を握った。なぜか、こうしなければいけないような気がしたのだ。
「……何? 突然に」
「我慢しなくても、いいよ。大丈夫、俺がいるから」
 そういった俺の顔を、奈緒美は少しの間、不思議そうに眺めていたが、そのうちすっ、と体をよせ、顔を俺の肩に乗せて、こういうのだった。
「……まったく、直樹にはかなわないわね。多分、あなただけよ」
「大丈夫、俺だって、奈緒美にはかなわないさ。こんな気持ちになるのは、奈緒美だけだからね」
 もたれかかってきた奈緒美の体とぎゅっ、と抱きしめ、そうつぶやく様に言いながら俺は、ある種の気概というか感慨というか、そういった感情がこみ上げてくるのを感じていた。この人と共に生きて行きたい、生きていかなければならないのだ。俺には確かに、そう思えた。

「で、紅茶はまだかな?」
『うわぁっ!』
 戻ってこないので気になったのか――あるいは口調からすると、からかってみたくなったのかもしれない――、ぬっと由紀夫さんが顔を出してそう言った瞬間、あわてて俺たちは体を離していた。
「お父さん!」
「何だい?」
「何だじゃなくてね……、そういう時はあらかじめ声だけかけるとかそういうことをしなさい!」
「あー、すまんすまん、ついな」
「ついな、じゃなくてねぇ……まぁいいわ。すぐ準備しちゃうから居間に来て。直樹も」
「了解」
 すたすた、と奈緒美が行ってしまった後に残されたのは、またもや男2人。
「あのー……」
「なんだね?」
「いや……、居間って、こっちですよね?」
「そっちだな。それじゃ行こうか」
「はい」
 奈緒美が行ってしまった後の由紀夫さんの表情が、どこかで見たことがあると思ったら、うちの親父が時々見せる、悪い意味で子供っぽい表情にそっくりだったのだ。
「義父さんって、うちの親父と気が合うかもしれないですね」
「そうかな? まぁいずれにせよ、一度ご挨拶には伺わないといけないだろうね。櫻井……直弘さんとおっしゃったかな、いずれ一席設けたい、と伝えておいてくれないかな」
「はぁ……、分かりました」
 変な感じに意気投合しなきゃいいけれど、と思った俺の心配は、まぁ後にばっちり現実のものになるのだけど、この日俺は、由紀夫さんも俺の親父と似ているというあたりに、俺が奈緒美を好きになった新たな理由を見つけたような気がした。